20話完結 「97年と俺と競馬と律子先輩」
毎週G1レースの前日 土曜日 更新予定
桜花賞
降りしきる雨の中、新入社員の務めである花見の後片付けを終えた俺は「よっ お疲れ」と微笑む律子先輩に会釈して足早に会場を後にした。短波ラジオは不良馬場の桜花賞をキョウエイマーチが制したと報せていた。まさかこの後、憧れの先輩とあんな事になるなんて知る由もなかった。◎ソウルスターリング
— りょう49 (@ryo49_) 2017年4月8日
皐月賞
金曜日、一週間がやっと終わった。
仕事を覚える前に人の顔と名前を覚えるのに一苦労している。ボーッとしながら四ツ谷駅のホームに降り立った俺は人混みの中からまるで後光が差しているその人を見つけた。「律子先輩…?」何故だか今まで出した事のない勇気が湧き上がってくる。◎ペルシアンナイト— りょう49 (@ryo49_) 2017年4月15日
天皇賞 春
皐月賞はまさかのサニーブライアンが逃げ切り。天皇賞春は逃げ馬に注意しようかな。GWを前にボーッと考えていたら視界に律子先輩が入り込んできた。「何ずーっとニヤニヤしてるの?ひょっとして彼女のこと〜?」
いや先輩のことを考えてたんです、そんな白々しい嘘をつきかけたが◎キタサンブラック— りょう49 (@ryo49_) 2017年4月29日
NHKマイルカップ
先輩は28歳。1997年における28歳女性はクリスマスケーキ後と揶揄される年齢だ。新人の俺が付き合うなら相当な覚悟が必要。金も実績もない自分が彼女を振り向かせる事が出来るのだろうか。意を決して遊園地デートに誘ったその結果は…第2回NHKマイルCの出馬表が出る前に◎アエロリット
— りょう49 (@ryo49_) 2017年5月6日
ヴィクトリアマイル
返ってきたのは意外な答えだった。
「いいわよ」
えっ、なんで?
思わず聞きかけた言葉を飲み込んで、いつ頃がいいですかね、とか楽しみですね、という話ができる自分を見て、よくもここまで女性に対する免疫がついたものだと感心した。
女たちの戦いが創設されるのはこの9年後◎ミッキークイーン— りょうザNo.1 (@ryo49_) 2017年5月14日
オークス
西武球場。遊園地で二人ひとしきり遊んだ後にタダで観れるからと野球を見る事に。マルちゃんがホームランを打った。途中降り出した大雨から逃げるように先輩の家の最寄駅に帰って来た。
ずぶ濡れの23歳男子に先輩の一言
「そんな濡れ鼠で帰るの?風邪ひくから泊まってけよ!」◎リスグラシュー— りょうザNo.1 (@ryo49_) 2017年5月20日
ダービー
今までの俺なら絶対に遠慮して、「いえ大丈夫です帰ります」って答えたけどその日はなぜか「ありがとうございます、そうします」と口から出た。神様のくれた雨のチャンス、逃す事なく優勝した。翌日、サニーブライアンがダービーを逃げ切った事を彼女の家のTVで知った。◎ペルシアンナイト
— りょうザNo.1 (@ryo49_) 2017年5月26日
安田記念
金曜の夜は彼女とデートが定番になった。
一緒に会社を出るわけにはいかないのでいつも時間差で出て新宿で待ち合わせ。
つな八で天麩羅を食べた後は中央線に乗って西へと。府中に行かずに彼女の家へ◎アンビシャス— りょうザNo.1 (@ryo49_) 2017年6月3日
宝塚記念
爆音の轟く高円寺のライブハウス。会社のアマチュアバンド達が年に一回ライブを行うらしく、フレディ・マーキュリーを信奉する先輩からお前も来い、と言われて来てみたもののこの後の予定の事で頭が一杯。そう、今日も西国分寺にある彼女の家に行く事になっている。◎レインボーライン
— りょう4.9 (@ryo49_) 2017年6月24日
(続きはこの下にあります↓↓↓↓)
スプリンターズS
彼女が風邪をひいて会社を休んでいる。
電話をしようかと思ったけど寝ていたら悪いな。iモードが世に出るのはまだ2年先。
気がついたら彼女のアパートの前にいた。
◎モンドキャンノ— りょう7*7 (@ryo49_) 2017年9月30日
秋華賞
今日は情報処理技術者試験の日。新人は皆第二種情報処理技術試験を受からなければ人として扱われない。彼女の家に行くのも1ヶ月封印して勉強。仕事しながら勉強するのは正直キツい。受からなければ彼女が自分自身を責めてしまうだろう。レースはライブで見れない。◎アエロリット
— りょう49 (@ryo49_) 2017年10月14日
菊花賞
情報処理試験の出来はまずまずだったが合格発表はまだ先。今日は労いの久々デート。2冠を達成したサニーブライアンは怪我で引退。俺の本命はもちろんメジロブライト。東スポを眺める俺に彼女は苦々しく言う「私と馬とどっちが大切なの?」◎ダンビュライト
— りょう49 (@ryo49_) 2017年10月21日
天皇賞 秋
明日、一緒に競馬を見に行こうよ。
そう言って金曜の夜から彼女のアパートに転がりこんだ。寝て、起きて、寝て、寝て、起きたら、テレビがエアグルーヴが牝馬で初めてこの天皇賞秋を勝ったことを伝えていた。
「今度はちゃんと競馬行こうね」
その約束は叶うことはなかった。
◎キタサンブラック— りょう49 (@ryo49_) 2017年10月28日
エリザベス女王杯
風邪をひいて寝込んでいた。明日のエリザベス女王杯はダンスパートナーから行こうと決めたものの身体が重く馬券を買いに行けそうにない。彼女が風邪をひいて寝込んだ日、看病に行ったことを思い出して一人で泣いた。
翌日僕はもう一度泣いた。
◎トーセンビクトリー— りょう49 (@ryo49_) 2017年11月11日
マイルチャンピオンシップ
最近会社での彼女の態度がぎこちない。
何をするにも事務口調だし、会話をするのも避けられてるし。
一体何が悪いのか?言ってほしいと伝えても言葉を濁すばかり。
マイルCSには桜花賞馬が参戦するという。
◎イスラボニータ— りょう49 (@ryo49_) 2017年11月18日
ジャパンカップ
最近会っても会話が続かない。
僕はこの人を幸せにできるのか、仕事も半人前、馬券も半人前、秋の情報処理試験は受かったけれど、彼女の態度はどんどんつれなくなっていった。
「もうこの関係は終わりにしましょう」
いつか来ると思っていた瞬間はやって来た。
◎キタサンブラック— りょう49 (@ryo49_) 2017年11月25日
チャンピオンズカップ
一週間たったか、二週間たったか、仕事が手につかない。今日は初めて客先で打ち合わせだったのに遅刻してしまう始末。
97年、フェブラリーSが初めてダートG1となった年。ジャパンカップダートはあと2年待たねばならない◎ゴールドドリーム— りょう49 (@ryo49_) 2017年12月2日
阪神ジュベナイルフィリーズ
だんだんと失恋の傷は癒えてきた。やはり新人のヒヨッ子なんかが美貌と器量がある先輩と結ばれる事など絵空事だったんだ。ヒヨッ子たちの中からナンバーワンが選ばれるレース、阪神3歳牝馬S。一番人気はシンコウノビー後藤浩輝J◎ラッキーライラック
— りょう49 (@ryo49_) 2017年12月9日
朝日杯フューチュリティステークス
そうはいってもやはりあの日のこと、あの雨の日のこと、あの夜のこと、エアグルーヴが勝った天皇賞の日のことの約束を思い出さずにはいられない。
全てがこの8ヶ月に起こった事が信じられない。ひょっとして全て俺の妄想だったのか?
無敗の○外グラスワンダーは優勝できるのか?◎ダノンプレミアム— りょう49 (@ryo49_) 2017年12月16日
有馬記念
彼女が会社を辞めることを知ったのはチームの忘年会で中華街へ行く道すがらの電車の中だった。実家の福岡に帰って、お見合いで知り合った医者と結婚するんだという。
97年の冬、俺の淡い短い青春が終わった。
有馬記念の本命馬はメジロドーベル。あの人に似て強いオンナ馬だった。
◎キタサンブラック— りょう49 (@ryo49_) 2017年12月23日
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あとがき
ちょうど20年後、俺も同じ時期に会社を辞めるとは思わなかった。
この恋愛小説風競馬予想は、全くオリジナルのスタイルではなく、Twitterの先達者がたまにやっていた単発の私小説風競馬予想を真似たものだったのだが、どうせならば20年前、会社に入社した頃に経験したことを脚色して、その当時のG1レースの勝ち馬や一番人気馬を思い出しながら、競馬と恋愛のいく末をシンクロさせて書いてみようと思い、2017年の桜花賞の日から1週間くらいで、有馬記念までのお話を書ききった。
あとは毎週G1レースの予想をして文末に◎を書き入れてツイートするだけなんだけど、特にマイルCSのところなんかは桜花賞馬参戦を桜花賞の時点で書いたのがうまくハマったり(戦績も4着とレーヌミノル頑張った)、物語がクライマックスを迎える天皇賞秋をキッチリ◎1着的中させたりと、十分に楽しめた。
最後の方は現在進行形の話と20年前の失恋の話すらシンクロし始めて事実は小説より奇なりを体現し、自己満足の創作としては十分である。
いつもTwitterでいいねしてくださるフォロワーさんにも続けていくモチベーションを貰いました。ありがとうございます。
来年は何をテーマにG1の予想をしようかな、10年前を振り返るか、と思ったけど10年前は2008年か。あまりにも最近すぎて面白いネタがないね。
最近の話を生々しく語ろうかなあ。
私小説風競馬予想◎の全成績(有馬記念 確定後)
3211757(15)5(14)751(10)531111
7-1-2-10/20
複勝率50%
単回収率162%
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは関係がありません。固有名詞は全て仮名です。馬名、1997年のG1勝ち馬などは事実に基づいております。
複勝圏内 10頭
ソウルスターリング(3着)
ペルシアンナイト(2着)
キタサンブラック(1着)単220円
アエロリット(1着) 単580円
キタサンブラック(1着)単310円
キタサンブラック(3着)
ゴールドドリーム(1着)単1300円
ラッキーライラック(1着)単410円
ダノンプレミアム(1着) 単230円
キタサンブラック(1着) 単190円
単勝合計 3,240円/2,000円
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